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熊本地方裁判所 昭和60年(行ウ)7号 判決 1991年10月31日

原告

橋本政弘(X)

右訴訟代理人弁護士

村上俊夫

被告

熊本県知事 福島譲二(Y)

右指定代理人

若杉鎮信

浅野秀樹

正木暠

田丸逑史

中村公治

浜屋和宏

鳥山克

池田春幸

理由

一  請求原因1、2及び4の各事実については当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、請求原因3の事実(許可要件)のうち、規模要件を除いた他の政令で定められた許可要件については、充足していたことが認められる。

二  規模要件について

1  食糧管理法施行令五条の一二第一項六号、同施行規則五五条但書、昭和六〇年五月一一日熊本県告示第四一〇号によれば、本件処分が行われた昭和六〇年一〇月五日当時においては、分店を設置するための規模要件として、現営業所及び新営業所における年間販売見込数量のいずれもが四四精米トンを超えることを要求していた。

2  被告が原告に対し、附帯資料の提出を求めるに至った経緯

(一)  〔証拠略〕を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 熊本県は、米穀販売業者許可事務取扱要領(以下、取扱要領という。)及び熊本県米穀小売業分店設置許可実施要領(以下、実施要領という。)を定め、分店許可申請をするに際し、規模要件を証明する書面として、販売実績数量及び販売見込数量証明書(様式第一一号)の添付を求めている。

(2) 本件各申請には、いずれも右証明書が添付されていた。

(3) 昭和五八年に、原告からの七分店の許可申請に対し、これを許可したところ、原告の同業者から熊本県に対し、苦情とともに五〇件を超える申請が一気になされた。

(4) このため、熊本県は実施要領(昭和五八年一〇月一日付制定実施)の改定作業をしていたところ、本件各申請がなされたため、熊本県は、原告に対し、申請の取下げを要請する等の働きかけをしていたが、本件各申請において規模要件が充足されていない旨の告知はなされなかった。

(5) 昭和六〇年二月二五日、熊本県は、原告に対し、農政部長名で同日ヒヤリングを行うので出席されたい旨の通知をなした。

(6) 右ヒヤリングには、原告は出席せず、原告の代理人として訴外藤田信博が出席し、熊本県は、同人に対して、附帯資料の提出を依頼した。

(7) 附帯資料は、右ヒヤリングの直前に作成されたものであって、改定された実施要領(昭和六〇年三月二八日実施)においても、添付書類として明記されていない。

(二)  以上の事実によれば、熊本県は、昭和六〇年二月二五日の前までは提出を求めていなかった附帯資料を明確な理由を告げることなく、原告に求めたことが認められるのであって、原告から附帯資料の提出がなかったことをもって、本件各申請が不適法であるということはできない。

3  そこで、本件各申請が、規模要件を充足していたと認められるか否かについて判断する。

(一)  〔証拠略〕を総合すると、本件各申請に係る新営業所の各販売見込数量について、規模要件を充足する旨の証明が、熊本食料事業協同組合理事長橋本政弘でなされていること、右各販売見込数量は原告が過去の実績から判断して記載したものであることが認められる。

(二)  更に、〔証拠略〕によれば、昭和五五年からの不作によって、昭和五八年度の米の需給は逼迫していたものの、昭和五八年度、昭和五九年度ともに、原告が買受け登録予約をしている熊本食糧事業共同組合においては、売買実績が前年度よりも上回っているところ、昭和五八年に許可のあった七分店中五分店の昭和五八年度及び昭和五九年度における販売実績がともに規模要件に達しなかったことが認められる。

(三)  以上の事実を総合すると、販売実績数量及び販売見込数量証明所(〔証拠略〕)から、直ちに本件各申請が規模要件を充足していたと認めることはできず、他に、本件各申請が規模要件を充足していたとし認めるに足りる証拠はない。

原告は、規模要件については分店ごとにその要件を充たしているか否かを判断する必要があることは関連法規上明らかであるところ、過去七分の五は不足しているから、本件各申請に係る三分店とも不足すると判断することは、法の適用を誤っており、誤った方法論であって、合理的であるとはいえず、原告についてだけ持ち出し、本件処分をなした被告の行為は、不公平、不公正な行政処分であって、裁量権の濫用である旨主張するが、被告は、本件各申請に係る各販売実績数量及び販売見込数量証明書(〔証拠略〕)が過去の例からして規模要件を証明するものとは判断できなかったことから規模要件を証明するに足りる資料がないとして、本件処分をなしたものであって、被告の判断が法の適用を誤っているとか、誤った方法論であるとか、裁量権の濫用であるということはできない。

更に、原告は、昭和五八年合計七店舗の分店の営業を始めるに際し、値引き販売しようとしたところ、値引き販売はするなと被告側から強く要求され、やむなく被告の要求に従ったという事情及び右七分店については、昭和五八年の実績が八月、九月、一〇月の三か月分しかなかったため、通年の四分の一の割当てしか受けられず、その結果供給が需要に追いつかず、販売量が小さくならざるを得なかった事情からして、被告のいう七分の五が四四精米トンに達していなかったから不許可相当とするとの考えは、とても合理的であると考えることができない旨主張するが、右事情を裏付ける的確な証拠はない上、食料管理法施行規則五五条但書が、新営業所(分店)だけなく、現営業所についても規模要件を要求している趣旨からすると、分店の設置は、本来消費者の利便等のために、従来の営業所の営業を分割する目的のためになされるものであって、新規の顧客の開拓を目的とするものではないと解されるところ、前認定のとおり、昭和五八年度、昭和五九年度ともに、原告が買受け登録予約をしている熊本食料事業協同組合においては、売買実績が前年度よりも上回っていることに照らすと、昭和五八年に許可を受けた七分店のうちの五分店が昭和五八年度及び昭和五九年度における販売実績がともに規模要件に達しなかったことについて、相当の理由があったということはできず、したがって、原告のこの主張は採用しない。

三  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 足立昭二 裁判官 大原英雄 横溝邦彦)

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